桃源郷のゾンビとミス・マープル
O・ヘンリー「桃源郷の短期滞在客」を思い出しながら読んでいくうちに センチメンタルジャーニーに浸るミスマープルの眼前 時の流れを止め得たかのような 古き良き時代のままの「バートラムホテル」という桃源郷は 仮面をはぎ取られ おぞましいゾンビの姿を現す。「参ったなぁ」 クリスティーにはかなわない
犯人、トリックを云々するのは野暮
英国の格式あるバートラム・ホテルで起こった殺人事件。しかし、本作で犯人やトリックを云々するのは野暮というもの。読者は、古き良き時代の英国を楽しめば良いのだと思う(勿論イギリス人読者を想定している)。作者も当然そのつもりなのだろう、探偵役にはポアロ(ベルギー人)ではなくミス・マープルを持って来ている。
年1回、クリスマスの日にクリスティが英国国民に送るプレゼント。我々もそのおこぼれを味わって、大いに楽しもう。
「メロドラマみたいだっておっしゃるんでしょう?でも、わたしの経験ですと……」
「実は、わたしね、ロンドンの、バートラム・ホテルに行ってみたいんですけどね……」
ミス・マープルは、14歳のころ泊まったことのあるホテルに滞在します。
そこは14歳のときと変らない「古きよき英国」の時代のままに運営されており、懐かしさにに喜びますが…。
ミス・マープルは周りの人たちや従業員の姿を観察することで、その「古い素敵なホテル」の運営の裏側に思い至っていきます。
ミス・マープルは、「台所の布巾」を買いに出かけたりしながら、やっぱり「観察」に精をだしていろいろ興味深い事実をさぐっています。
このお話では大活躍ではないのがちょっと残念。
デイビー主任警部が精力的に活躍しています。
古き良き
古き良き、という修飾語がよく似合うホテルが舞台。 セントメアリミードから離れてロンドンに滞在しているマープルと、彼女を取り巻くとっても個性的な人々の愛憎劇。 情景描写に一段と磨きがかかり、ほの暗いホールに銀食器の擦れる音、しっとりとしたマフィンにとろりとしたジャムが目に浮かぶよう。 推理もさることながら、これがマープルの、クリスティの愛したイギリスだと紹介されているような一冊。 読むときには紅茶とクッキーを手元において、雰囲気に浸れる準備を。なお、実際にロンドンにモデルとなった同名のホテルがあり、各国からクリスティファンが訪れているという。
こんなホテルに泊まってみたい
正直、後味はあまり良くありません。 私は読了後ちょっと沈んだ気持ちになりました。 ただ古い英国のホテルの描写(たとえそれが作られたものだとしても) は素敵です。泊まってみたくなります。 またミス・マープル自体がヴィクトリア時代そのままみたいな人なので、全体に流れるゆったりした雰囲気とマッチしています。
早川書房
カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) ポケットにライ麦を (クリスティー文庫) 復讐の女神 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 鏡は横にひび割れて (クリスティ文庫) パディントン発4時50分 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
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